東京地方裁判所 昭和58年(ワ)767号 判決
原告
石崎博文
右訴訟代理人弁護士
大政満
(他二名)
被告
暁運輸有限会社
右代表者代表取締役
佐藤靖三
主文
一 被告は原告に対し、金一五八万九四〇六円を支払え。
二 訴訟費用は被告の負担とする。
三 この判決は仮に執行することができる。
事実
第一当事者の求めた裁判
一 原告
主文と同旨。
二 被告
1 原告の請求を棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。
第二当事者の主張
一 請求原因
1 被告会社は、運送業を営んでいる会社である。
2 原告は、昭和五四年一〇月ころ、被告会社の名義で四トントラック(以下、「本件自動車」という)を購入し、被告会社との間で、本件自動車を原告が運転して、被告会社から委託を受けた貨物を運送し、被告会社が原告にその対価として金員を支払う旨の雇用契約又は傭車契約(以下「本件契約」という)を締結した。
3 本件契約の際、当事者間で、原告の一日当たりの日当又は傭車料を二万三〇〇〇円とするが、これから、一か月当り二万円の事務委託料及び被告会社が支払った本件自動車の任意保険料を控除する旨の合意がなされた。
4 原告は、昭和五七年一月六日から同年六月二一日までの間、本件契約に基づき合計八九日間運送業務を行ったから、これに対する日当又は傭車料は合計二〇四万七〇〇〇円となる。他方、右期間中の事務委託料は合計一二万円(六か月分)、被告会社が支払った任意保険料は合計三三万七五九四円である。
5 よって、原告は被告に対し、未払の賃金又は傭車料から前項の事務委託料及び任意保険料を控除した金一五八万九四〇六円の支払を求める。
二 請求原因に対する認否及び反論
1 請求原因第1項の事実は認める。
2 同第2項のうち、本件契約締結の事実は認めるが、その法的性質は、雇用契約ではなく、傭車契約である。
3 同第3項のうち、原告主張のとおりの事務委託料及び任意保険料を控除すべき旨の合意があったことは認めるが、その余は否認する。
右のほか、燃料費及びナンバー料金も傭車料から控除する旨の合意があった。
4 同第4項のうち、任意保険料の点は認め、その余は否認する。原告は昭和五六年一一月及び一二月の事務委託費も支払っていないので、控除すべき事務委託料は合計一六万円である。また、燃料費七万八〇一〇円及びナンバー料九九万円も傭車料から控除すべきである。
5 被告会社が原告に支払うべき傭車料は一四二万一〇〇〇円にすぎず、他方、被告会社は原告に対し、事務委託費、任意保険料、燃料費、及びナンバー料の合計一五六万五六〇四円の債権を有するから、被告は、右債権債務を対等額で相殺する。
第三証拠(略)
理由
一 被告会社が運送業を営む会社であること、請求原因第2項記載のとおり本件契約が締結されたこと(ただし、契約の法的性質の点は除く)、その際、被告会社が支払うべき金員から、少なくとも、一か月当り二万円の事務委託料と被告会社が支払った本件自動車の任意保険料を控除すべき旨の合意があったこと、及び被告会社が支払った任意保険料が合計三三万七五九四円であることについては、当事者間に争いがない。
二 前記争いのない事実に、原告本人尋問の結果によって成立を認める(書証・人証略)を総合すると、次の事実が認められ、この認定に反する(書証略)は右各証拠に照らし、にわかに措信できず、他にこの認定を覆すに足りる証拠はない。
本件契約の趣旨は、原告を被告会社の従業員として雇用するものではなく、原告が被告会社から委託を受けた貨物を自己の責任で運送し、被告会社は原告に対し、傭車料という名目でその対価を支払うというものであった。右傭車料は一日当たり二万三〇〇〇円と合意され、原告は昭和五七年六月二一日まで、本件契約に基づいて被告会社の貨物を運送した。しかし、被告会社は、原告に対し、昭和五六年一二月までの傭車料を同月分までの事務委託費を控除して支払ったものの、それ以後の傭車料を支払わない。原告は、昭和五七年一月六日から同年六月二一日までの間、合計八九日間右運送業務に従事したので、その間の傭車料は合計二〇四万七〇〇〇円となり、この間の事務委託料一二万円、及び被告会社が支払った任意保険料三三万七五九四円を控除した一五八万九四〇六円が未払となっている。
三 なお、被告は、本件契約の際、ナンバー料及び燃料費も傭車料から控除する旨の合意があった旨主張し、(書証略)中にはこれに副う部分もあるが、同証は、これに反する原告本人尋問の結果に照らし、にわかに措信できず、他に右合意の存在を認定するに足りる証拠はない。
そうすると、被告が原告に対して有すると主張する反対債権の存在は、原告が自認する限度でしか認められず、原告は、本訴請求に当たって、これを控除しているから、被告の相殺の主張は採用できない。
四 以上によると、未払の傭車料金一五八万九四〇六円の支払を求める原告の本訴請求は、すべて理由があるから、これを認容し、訴訟費用の負担について民事訴訟法八九条を、仮執行宣言について同法一九六条をそれぞれ適用して、主文のとおり判決する。
(裁判官 藤山雅行)